どんな病気でも早期診断、早期治療がその後の病状経過に大きく影響することはご存じかと思います。
認知症についても同じで、物忘れを自覚するようになったり、家に閉じこもりがちになってきた、日常生活の中での失敗が増えてきた等の症状が出始めた初期に、適切な検査や治療が行われることで進行を遅らせることができます。
認知症の方は自身の体調や思いをうまく言葉で表現できないことがあります。
気分の変調や混乱の裏には何らかの苦痛や不調が隠れていることがあります。
認知面だけでなく、身体面も丁寧に観察を行います。
そういった「なんか症状がひどくなっている」という場合には、認知症の進行なのか身体面の不調が起きているのかを確認します。
認知症を発症する年齢の方の多くは高齢であり、何らかの身体疾患を患っていることも多く見られます。
【こんなケースがありました】
「急につじつまの合わない話をするようになった」「突然歩けない日があったり、外へ歩いて行ってしまう日もある」と相談がありました。
認知症の進行が疑われ、週1回の状態観察から訪問が開始になりました。
内服管理や環境調整、ヘルパーさんやデイサービスのスタッフとの情報共有も行い、安全に落ち着いて過ごせるようケアを行いました。
急激な認知機能低下が見られたため主治医とも情報共有を図り、受診時には主治医へ訪問時の様子を伝え、身体面の異常もないか検査や診察も依頼していきました。
定期的な検査や薬剤療法を継続しているなか、1か月ほどしたある日、急に呼吸状態の悪化が出現しました。
救急で受診をした結果、数年前に患った癌の再発が見つかったのです。
実は癌による全身状態の悪化が、認知機能低下を引き起こしていたようです。
体調の変化をうまく伝えられないことも多く、行動などから認知症の症状と捉えられやすいことがあります。
ご本人が発信するサインを見逃さず、適切なタイミングで医療機関につなげていくことも看護師の大切な役割です。
介入初期は信頼関係を構築することから始めます。
認知症の方が診断を受けてから今日まで、どのような思いを抱えているか、診断されるもっと前のその方がどのような人生を歩んでこられたのかなど、少しずつ伺いながら看護師との時間が心地良いものになるように関わります。
誰かに関わってもらうことが苦痛ではないという体験を重ねていくことで、ゆくゆく利用するであろう様々な介護サービスの導入がスムーズにいくこともあります。
また訪問介護やデイサービスなど他のサービス関係者へも、その方にあった個別の対応方法についてアドバイスさせていただくことができます。
特に初期の頃は不安が強くなる傾向にあり、ご家族へ感情をぶつけることもあるかもしれません。
その時期はご本人の訴えをよく聴き、どのような関わりが不安を軽減させることができるかを探ります。
ボタンの掛け違った関わりはBPSD(周辺症状)を助長させてしまう可能性があります。
良い方法を見つけながら、ご家族や周りの方にも「こんな声掛けがいいですよ」「こんな誘い方をしてみてはどうですか」などアドバイスさせていただきます。
認知症と診断され、もしくは「認知症かな」と自覚するようになったときにはすでに何らかの困り事が出ているかもしれません。
それまでの生活歴や環境、お体の状態によって困り事はさまざまです。
物忘れや無くし物が増えて不安が強くなっていたり、人との関りを避けるようになってしまうなど、その人によって様々です。
例えば、それまではご自身で管理できていたお薬が、いつからか飲めていなかったということもあります。
お薬が飲めなくなると体調も崩しやすく、体調の悪化がさらに認知機能を低下させることにつながります。
看護師はお薬がきちんと飲めなくなった原因を探ることから始めます。
新しいお薬が始まったタイミングで混乱していたり、お薬を飲んだことを忘れてしまい続けて飲んでしまっていたケースもありました。
看護師が定期的に介入することで、内服薬の把握や効果・必要性についての説明を継続して行うことができます。
また、必要に応じて主治医や薬剤師と連携を図り、飲み忘れや飲み間違いを予防する方法を検討してご提案させていただきます。
訪問することで見えてくる問題点を整理し、その方の持っている強みを生かしながら生活全般を整えていくことができます。
早期からリハビリを取り入れることで、ADLを維持することが可能となり、認知症症状を軽減させることができると言われています。
ご家族と一緒に行うリハビリには後ろ向きでも、看護師とは「リハビリの時間」と理解して実施できる場合もあります。
ADLが維持・向上することで介護負担が軽減されますね。
また、周辺症状が軽減されたり体力低下を予防することで、他の身体疾患を引き起こすリスクも軽減できます。
【こんなケースがありました】
人との関りを避けるようになり、家にこもりがちになるケースがありました。
外に出たくない理由には、体を動かすことで痛みが出る部位があり、外出することが苦痛な体験となっている場合がありました。
この場合は苦痛症状の改善や、負担の少ない動作の練習を行いました。
また、身支度がうまくいかず人に見られることが嫌になってしまったというケースもありました。
訪問時に整容を手伝ったり、他者と関わることが苦痛ではないという体験を重ねていき、少しずつ屋外へ出られるように支援することもあります。
外へ出ることが難しい方でも、体力の低下を防ぐために自宅という安心できる環境でリハビリを行ったり、ADLの維持が図れるようケアを行います。
診断から徐々に進行する病状と向き合っていく中で、不安や戸惑いを感じることも多いと思います。
抱えている思いを私たちにお聞かせください。
介護の方法や必要な情報の提供を行います。
ご家族だけでは支えきれないことも、様々な職種のプロたちと連携しながら「その人らしく」過ごせるよう支援します。
よく耳にするアルツハイマー型認知症やレヴィ小体型認知症は緩やかに進行していきます。
また、脳血管性認知症も脳梗塞や脳出血の再発を機に進行していきます。
また持病や高齢であるがゆえに身体疾患を併発することも多く、治療や生活の場を選択しなければならない時がきます。
認知症はいくつかのステージを経て、会話ができなくなったり日常生活の全般において介護が必要な状態になります。
近年、ACP(人生会議)が普及されてきているなか、認知症の方のACPについても同様です。
早期から訪問看護を利用していただき、言葉や表情で意思表示ができる時期から、病状の進行により変化していく気持ちや考えに寄り添いながら、ご家族や支援者の方たちと認知症の方の意思決定支援をさせていただきたいと思うのです。
その人生会議のメンバーに看護師も参加させていただけたらと思っています。
認知症とは脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。
高齢になればなるほど、認知症を発症する確率は高くなると言われています。
進む高齢化に伴い、2025年には5人に1人が認知症になるという推計もあり、軽度認知障害(MCI)を含めるとその数はさらに増えます。
国も2015年に「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す」とし、様々な取り組みが始まっています。
早い時期に看護師の利用につなげていただくと、より「その人らしく暮らす」ための支援が可能となります。
早期介入が理想としながらも、一方では認知症初期では「自分は何ともない」と看護師訪問の受け入れが良くないケースがあるのも事実です。
病識の薄さというより、認知症症状を自覚していても「そんなはずない」「(忘れてしまった、失敗した)事実なんてあるはずがない」と認めたくない気持ちの表れかもしれません。
初めは定期的な健康チェックという形で訪問看護の頻度を少なめに設定することもありだと思います。
認知症の方の自尊心を傷つけないよう慎重に関わります。
小さな困り事を一緒に解決したり、良い時間を一緒に過ごしてくれる人と認識してもらえるようになれば徐々に受け入れてもらえるのではないかと思っています。