訪問看護とケアマネージャーさんとの良い連携で、家族含め関わる人が「無理かな」と思った本人の希望も叶えることができます。
「最期まで自宅で過ごしたい」というAさんの思いに寄り添いながら、その願いを叶えることができたケースがありました。
今回はこのAさんの事例をもとに、ケアマネージャーさんとの良い連携についてご紹介します。
終末期にあるAさんは、入院での療養と在宅での療養で迷っていらっしゃいました。
まずは在宅で療養を継続することになりましたが、ご家族の介護力も少なくいずれ来る最期は入院を検討していました。
しかし、ケアマネージャーさんを中心に良い医療・介護連携チームが作られ、Aさんの希望どおり最期まで自宅で過ごすことができました。
在宅看取りに向けたケアマネージャーさんとの連携ポイントは以下に挙げられます。
1.家族背景に合わせ、ケアを進めていくときのポイントを共有できた
2.変化するAさんの希望、ご家族の希望を共有できた
3.新しいサービスを提案するときに看護師も一緒に説明できた
4.状態に変化があったときはその都度報告を行い、サービスの追加や福祉用具の導入ができた
5.訪問診療の往診に同席、在宅ケアの方向性をチームで共有できた
では、一つずつ詳細を解説していきます。
Aさんはお子さんがまだ幼い時にご主人を亡くされ、働きながら二人のお子さんを育ててきました。
Aさんはたくさんの事を一度に理解することが難しい長男さんとの二人暮らしで、キーパーソンとなる次男さんは遠方にお住まいでした。
訪問看護介入前にケアマネージャーさんから家族背景について伺っていたので、重要な決定は次男さんにお任せしていくことになりました。
また長男さんがどこまで介護ができるかを確認し、指導内容も分かりやすい表現で伝えていこうと話し合いました。
長男さんには緊急時の連絡先や連絡手段について、往診スタッフからも説明を行ってもいらいました。
普段と違う状態になったときに長男さんが混乱せず対応できるようにするためです。
そして息子さんたちに過度な負担が生じないかも注意してみていくことなりました。
当初、息子さんたちは「自分たちは下の世話が必要になったら方法もわからないし家で見られない」と話されていました。
訪問看護が始まったばかりの時はAさんも自分でトイレまで行くことができ、食事も手に持って食べることができていました。
しかし状態は徐々に低下していき、足元もかなりふらつくようになってきました。
転倒の可能性も高く、長男さんは夜通し気が気でないといった様子でした。
実際に転倒を繰り返し、歩行ができなくなってくると「下の世話」が必要になりました。
当初の意向ではその状態になったら入院を希望されていたため、改めてAさんと息子さんたちに希望を伺いました。
息子さんたちはAさんに「どうする?」と聞き、Aさんは「そりゃあ、家にいたいわ」と訴えが聞かれました。
息子さんたちも悩んだ後に、「本人が望むならそうしよう」と最期まで自宅で過ごすことを決定しました。
この意思決定についてケアマネージャーさんへ報告し、今後起こりうる変化と共に必要になってくるサービスの検討が進められました。
Aさんは若いころから仕事をしながら子育てをしてきた方でした。
そのため自分のことは後回しにして、息子さんたちのことを優先してきたそうです。
状態変化に合わせて、介護ベッドの導入や訪問介護の利用などを提案しましたが、「いいわ、いらない」と受け入れてくださいませんでした。
もしかしたら、自分のことは構わなくていいという気持ちの表れかもしれないとのことでした。
息子さんたちも本人が希望しないなら、と初めの提案ではサービス追加を希望されませんでした。
特に長男さんは新しいことを取り入れることに抵抗があるようでした。
しかし、いよいよ寝たきりになりオムツを使用するようになると、息子さんたちだけでは介護は難しくなりました。
このまま訪問看護だけで在宅療養を継続していくには、褥瘡などの合併症を引き起こすリスクがありました。
ケアマネージャーさんから新たなサービス追加について提案する際に、看護師も同席させていただくことになりました。
看護師からは現在の状態と、このままの状態が続くことで起こりうること、介護サービスの利用でそれらが解決することを図式化して伝えることにしました。
ケアマネージャーさんからは実際に利用可能なサービスの提案と説明を行ってもらいました。
Aさんと息子さんたちに、苦痛を少なくするためのサービスであることを説明して了承を得ることができました。
Aさんの状態は週ごとに変化していきました。
食事の量が減ってきたり、転倒してしまったなどの状態変化やアクシデントが生じたときはその都度報告をするようにしました。
またケアマネージャーさんからも訪問時の様子について連絡をもらい、情報を共有しました。
長男さんは状態に合わせた対応が難しい方でした。
飲み物でムセが見られるようになってきた時期には各サービスが介入した際に「無理に水分をあげなくても良い」など同じ説明ができるようにしました。
変化を共有することで、病状進行の速度や起こりうる状態に備えて各サービスがスムーズに対応することができました。
通院が困難となり、訪問診療を利用していました。
その先生は初めて協働してケアを行う訪問診療の先生でした。
どんな先生なのか、Aさんの希望を聞いてもらえるかなど、不安や緊張もありました。
状態の変化があったときや、意思決定の確認が必要なタイミングでは訪問看護が診察に同席することもありました。
その際にケアマネージャーさんも同席していただき、先生に直接質問したり、反対に在宅での様子を看護師とケアマネージャーさんから先生に伝えることができました。
適切な時期に情報を共有することで方向性や問題点が明確になり、ステージに合わせた各職種のするべきこともはっきりします。
結果的にご本人にとって安楽に過ごせることにつながります。
また顔の見える関係を作ることで、利用者さんやそのご家族の不安も軽減されると思います。
訪問が始まって1ヵ月程経過した日曜日、Aさんのご自宅で最期を迎えました。
晴れた日曜日のお昼でした。
長男さんから呼吸停止の連絡が入りました。
長男さんは前もって説明されていたように、きちんと状態の変化を捉えて看護師へ連絡してきてくれました。
長男さんは最期のその時まで、Aさんの足をマッサージしてくれていたそうです。
Aさんの希望が叶い、最期まで家族と一緒にご自宅で過ごすことができました。
在宅療養を継続していくときに、過ごしやすい環境に整えていくにはケアマネージャーさんの力が不可欠です。
対象となる利用者さんは終末期に限らず、慢性疾患や難病を抱える方たちも当てはまります。
それぞれ必ず状態が変化するタイミングがきます。
日々の様子を知っている看護師とケアマネージャーさんが良い連携をとることで、利用者さんやそのご家族が安心して過ごせることにつながります。
情報の共有やどのような支援が必要になってくるかを話しあうことも大切なポイントです。
看護師という響きが、「難しい専門用語で話をされそう」「気難しそう」といったイメージがあるかもしれません。
とんでもありません!
私たち看護師も日々利用者さんのためにケアの方法を考えたり、どうしたら安心して安楽に過ごしてもらえるか考えています。
一人の利用者さんを中心に、在宅療養を支えるチームとしてお互いを尊重し合い、良いコミュニケーションを取っていけたらと思います。