パーキンソン病は、脳を働かせるホルモンの1つであるドパミンが減少し、手が震えたり、体が動きにくくなり、身体が不自由になる病気で、多くは50-60代で発症します。
日本では、65歳以上の100人に1人、80歳以上が30人に1人がパーキンソン病と言われ、身近な病気になりつつあります。
訪問看護の利用者さんにおいても、パーキンソン病の方は増加傾向にあります。
そこで今回は、訪問看護で出会うことの多いパーキンソン病ケアについて紹介します。
訪問看護が行うパーキンソン病ケアは以下の5つになります。
1.体調、病状のモニタリング
2.服薬管理
3.リハビリテーション
4.家族支援
5.環境調整
それぞれについて、以下で解説します。
パーキンソン病は、緩やかに症状進行するのがほとんどですが、感染症や心血管イベントがあったり、強いストレスがあった場合に、急激に体の動きが悪くなることがあります。
また、寝具の変化で寝返りが打ちにくかった時、十分な睡眠時間が取れなかった翌日に、一時的に体の動きが悪くなることもあります。
パーキンソン病は、固縮や無動、歩行障害などの運動症状が有名ですが、その他にも、非運動症状として睡眠障害、感覚障害、精神症状、認知症状、自律神経症があります。
※睡眠障害・・・日中の眠気、不眠、レム睡眠行動障害、むずむず脚症候群など
※感覚障害・・・嗅覚障害、痛み(主にドパミン不足が原因)
※精神症状・・・幻覚や妄想、うつ、無気力など
※認知症状・・・注意力や記憶力の低下、遂行機能障害、衝動抑制障害など
※自律神経障害・・・多汗や発汗低下、便秘やイレウス、起立性低血圧など
上記の事から、訪問看護師は、日々の体調を確認しつつ、上記の非運動症状に対してもモニタリングとケアを行っていく必要があります。
パーキンソン病の治療は、脳内で不足するドパミンを補うエルドパ療法や補助的な薬剤を使う対症療法が中心となります。
エルドパは概ね30分で効果を示し、1時間で血中濃度がピークとなり、90分でピークから半減すると言われており、パーキンソン病の経過が長いと服薬回数が多くなる傾向があります。
経口投与されたエルドパは、胃酸で溶かさ、小腸粘膜、血管壁で吸収されます。
そのため、高齢で低胃酸になっている場合や胃酸分泌膜をコーティングしてしまう牛乳や乳製品を内服直前に摂取してしまった場合には、薬の吸収を悪くしてしまう可能性があります。
訪問看護では、パーキンソン病の利用者さんが医師の指示通りに内服できているかの確認と合わせて、嚥下障害、薬の副作用、ウェアリングオフ、ジスキネジアの有無を確認します。
※薬の副作用・・・吐き気や嘔吐、食欲不振、便秘、めまい、動悸など
※ウェアリングオフ・・・薬の効果持続が低下し、体の動きが悪くなる時間が生じる現象
※ジスキネジア・・・医師と無関係に手や足が不規則に動いたり、口をもぐもぐさせたりする動き
薬を時間通りに内服できない、飲み忘れがあった場合には、1日分の内服を減薬するのか、時間をずらして内服させるのかについて主治医に確認しておくと良いと思います。
研究によると、パーキンソン病の方が薬物療法を遵守できない要因として、睡眠障害や認知障害、精神症の非運動症状と尿路症状が言われているため、病状のモニタリングをして予防策を検討しておくことも良いと思います。
もしも、パーキンソン病の利用者さんが自己判断で減薬、服薬中止をしてしまうと、運動症状の悪化だけでなく、パーキンソン高熱症候群となる可能性があります。
※パーキンソン高熱症候群・・・発熱、筋強剛(他動で関節を動かすとカクカクとした抵抗が生じる)、意識障害、高クレアチニンキナーゼ血症が見られる。
パーキンソン病の運動症状の進行を遅らせるためには、体操や歩行などの継続的な運動が有効です。
日々の生活の中で運動を行う習慣がない場合には、訪問看護師が一緒に運動したり、歩行を行うことが望ましいです。
また、薬物療法が効果を示しにくいと言われているすくみ足、姿勢不安定に対しては集中的にリハビリテーションを行うことが勧められます。
※すくみ足・・・足が地面に張り付いたように動かなくなり、踏み出そうとしてもなかなか足が動かなくなる症状。本人は歩こうとしているのに足は動かないために、体が前のめりになったり、転んでしまうこともある。すくみ足は、歩き始め、方向転換、通り抜け、障害物接近時に生じやすい。
すくみ足へのリハビリテーションでは、目標地点(例:トイレの前、リビングの椅子)までの歩数をイメージしてもらってから数を数えながら歩く、止まってしまったら左右に体を揺らしたり、足を1歩だけ後ろに引いてから歩き始めるなどの対処法を試用しながら、見守りながら歩行訓練を行います。
姿勢不安定へのリハビリテーションでは、まず初めに四肢、体幹の関節運動を行い、柔軟性を確保しましょう。
十分な柔軟性が確保できたら、ラジオ体操のような全身を大きく動かす運動を行ったり、大股で歩く運動などを行うことで姿勢の安定を図ります。
パーキンソン病の利用者さんの抱える不安や気分の落ち込みは、近くにいる家族にも影響を与えてしまいます。
訪問看護師は、病気の理解やケアの方法について介護者となる家族へ指導するだけでなく、家族が抱える悩みも積極的に傾聴することが重要になります。
また、訪問看護を利用するパーキンソン病患者の多くは、日常生活介助が必要となっているため、利用者さんに合わせた歩行、食事動作、トイレ動作、入浴動作などの介助方法を評価し、介助伝達を行います。
パーキンソン病患者の一般高齢者よりも転倒しやすく、転倒率は1年間1回以上が70%、複数回が50%と言われています。
転倒時の傾向としては、立ち上がりと歩行、更衣、トイレ動作時が多く、体の動きが悪いOFF時に比べ、薬が効いているONの時にすくみ足で転倒する場合が50%以上、前方への転倒が50%以上と言われています。
そのため、椅子や手すり設置、歩行器の選定などの環境調整が必要です。
また、床に物が多いことですくみ足が誘発される場合もあるため、動線の確認、確保も評価することも大事です。
転倒予防以外では、無動(動きが小さくなる)、肢節運動失行(動きがぎこちなくなる、不器用になる)により、食事動作や更衣動作が課題となることもあります。
その場合には、食事や更衣の自助具の活用を検討していきます。
今回は、訪問看護が行うパーキンソン病ケアについて紹介しました。
パーキンソン病は、利用者さんの症状が多岐に渡るため、訪問看護師が症状理解を深めながら継続的にケアを行っていくことで、安全、安楽な在宅生活が送れると思います。
しかし、症状理解は難しい、、、リハビリは何すればよいか困る、、、などなど悩みやすい疾患でもあると思います。
訪問看護ステーション アスエイドでは、看護師とリハビリ職が協同して、それぞれの専門性を生かしてパーキンソン病ケアを行っています。
初めての訪問看護でも安心して働けるサポート体制をとっているので、気軽にお問合せくださいね!