ALSとは全身に及ぶ筋萎縮、嚥下障害、言語障害、呼吸不全の順に身体機能が低下し、日常生活の介助だけでなく、栄養摂取と呼吸機能の管理が必要となる神経系の進行性疾患です。
日本にはALS(筋萎縮性側索硬化症)患者は1万人程度おり、その多くは在宅療養をしながら医療的処置や生活ケアを受けているため、訪問看護サービスが特に重要になります。
しかし、訪問看護で働き始めるまでALS患者と関わる機会がなかった看護師やリハビリスタッフがほとんどだと思います。
そこで今回は、ALS患者への訪問看護について詳しく紹介します!
ALS患者への訪問看護では、以下の5つを行っていきます。
1. 症状管理
2. 生活ケア
3. 家族支援
4. 災害時の対策
それぞれについて、以下で詳しく解説します!
ALS患者への訪問看護では、疾患の症状だけでなく、活動量の低下や寝たきりに伴う症状に関しても対応が必要になります。
以下は、訪問看護が行う代表的な症状管理です。
ALSの進行を遅らせることと症状緩和を目的とした薬の投与、身体機能の低下に伴う合併症に対する薬の投与があります。
進行を遅らせる代表的な薬剤には「リルゾール」=内服薬、「エダラボン(ラジカット)」=点滴、症状緩和の薬では抗けいれん薬や筋弛緩薬、抗コリン薬、抗不安薬などがあります。
訪問看護ではラジカット点滴を行う機会が稀にあります。
身体機能の低下に伴う合併症は、それぞれのALS患者さんで多岐に渡るため、薬物管理を訪問看護師が率先して行っていきます。
ALS患者さんは進行に伴い呼吸不全となってしまい、非侵襲的人工呼吸器や、必要に応じて気管切開が行われるため、呼吸ケアが必要になります。
呼吸ケアでは、バイタルサインの観察と合わせて吸引による気道の清潔保持、口腔ケアを行っていきます。
呼吸ケアが必要となったALS患者さんは、看護師の訪問時のみでの呼吸ケアだけでは不十分であるため、訪問看護師が家族やヘルパーに対して清潔操作と喀痰吸引の指導を行います。
ALS患者さんは、筋力低下による活動量の低下、関節の低可動により関節拘縮が生じやすいです。
関節拘縮の予防のために効果的な運動頻度は、片側の上肢、もしくは下肢の関節運動を1回5~10分、2~3回/日、5回/週と言われているため、訪問看護師やリハビリスタッフ、家族やヘルパーさんの協力がが重要になります。
ALS患者さんは嚥下機能低下による食事量が減少するだけでなく、誤嚥のリスクが高まります。
そのため、患者さんの機能に合わせた食形態の評価を行い、食事量の維持を図ります。
嚥下が困難となった場合には、経鼻もしくは、胃ろうにより経管栄養が行われます。
訪問看護師は、胃腸の負担軽減や下痢、吐き気を引き起こさないために、栄養剤の温度管理、投与速度の調整、姿勢、水分補給の量とタイミングなどの評価を行い、家族でも栄養管理できるようにサポートします。
ALS患者さんは筋力低下による活動量の減少と嚥下機能低下による食事量の減少により、消化器の動きが鈍くなってしまい、便秘やガスが溜まりやすくなります。
上記の場合には、訪問看護師が食事と水分摂取の工夫を提案したり、必要に応じて下剤の使用を促したりします。
ALS患者さんは排尿筋の機能低下により残尿してしまう、失禁してしまう、歩行や起立困難によりトイレ動作介助量が大きくなってしまうなどの理由により、膀胱留置カテーテルを使用することが多いです。
膀胱留置カテーテルの使用により、尿路感染症が起こりやすくなるため、訪問看護師を中心に尿道周辺の清潔保持、水分摂取の促し、尿の評価を行い、家族やヘルパーにも伝達していきます。
ALS患者さんは、箸が持ちにくい、歩くとつまづきやすい、声が出しにくいなどの部分的な症状から始まり、徐々に同時多発的な筋力低下が生じ、日常生活での困難が生じます。
毎月のように日常生活で難しくなる動作が増えていく時期を「進行期」、自身で身体を動かせなくなり、ベッド上で寝たきりとなる時期を「維持期」と呼びます。
進行期には道具や福祉用具などの工夫で今までできていた生活動作を維持していくサポート、維持期では家族やヘルパーなどの介助者ができ、ALS患者さん自身も安心・安楽に生活できるケアの提案を行います。
進行期で活躍する道具や福祉用具は、以下のものが挙げられます。
※それぞれの詳しい解説は省略させてもらいます。気になる福祉用具や道具は各自で調べてみてほしいです。
・上肢の機能低下に対する福祉用具や道具
→ポータブルスプリングバランサー、ソックスエイド、ピンセット型箸、トングのように2つに分かれているスプーン、手に固定するカフ、取っ手付きの食器、滑り止めシート、吸い飲み、手を使わない靴ベラ、ボタンエイド、マジックハンド、ボトルオープナー、ペットボトルハンドル、手指の拘縮予防クッション などなど。
・下肢の機能低下に対する福祉用具や道具
→杖や歩行器、車椅子、車椅子用のクッション、ワーキングチェアー(屋内を足漕ぎで移動できる椅子)、足り上がり補助が付いたソファ、ポータブルトイレ、尿瓶や自動採尿器、電動介護リフト、介護ベッド、エアーマット、送風ファン付きマットレス などなど。
・発話機能低下に対する福祉用具や道具
→トーキングデバイス、透明文字盤、エアーフリック式文字盤、スマートフォンやタブレットでダウンロードできる意思伝達アプリ(UVOなど)、外部センサーやスイッチコントロール、視線入力装置を用いたタブレットやパソコンの操作 などなど。
”難病等・重度身体障害の方の補装具等レンタル費の助成”と検索すると、各自治体のホープページでレンタル可能な福祉用具や道具が確認できますので、そちらもお試しください。
ALS患者への訪問看護では、家族支援が重要になります。
家族支援では、呼吸ケアや栄養管理、生活介助方法、医療的処置などの技術的な指導、医療機器の操作方法の指導だけではなく、家族の心配事や悩みなどの心理的な負担を軽減できるように傾聴したり、ストレス管理のアドバイスをしたり、患者と家族のコミュニケーションの橋渡しをしたりします。
訪問看護師は、患者や家族にとって最も身近な医療者であることを心がけると良いと思います!
維持期となったALS患者は、人工呼吸器を使用していること、患者の移動に複数人の介助者が必要であることなどの理由から、災害時の対策を行っておくことが大事になります。
具体的には予備バッテリーやポータブル電源の準備、吸引機を持ち出す方法を決めておく、車椅子への移乗を全介助者ができるようにしておく、などが考えられます。
つまり、ALS患者さんが寝たきり状態になったとしても自宅から外出できるように準備しておくこと、定期的な外出機会を持っておくことが災害の対策に繋がります。
外出企画はALS患者さん自身のQOLの向上にも繋がると考えるため、是非、訪問看護師が主体となって挑戦してみてほしいです!
今回は、ALS患者への訪問看護について紹介しました。
ALS患者への訪問看護は、進行期~から維持期の間で、人工呼吸器が導入されるタイミングであることが多く、今までできていた生活動作の維持を図りながらも、寝たきりによるトラブルに対して予防、対応を行っていかなければいけません。
訪問看護ステーションの看護師が一丸となって関わるだけでなく、家族、ヘルパー、他の看護ステーションの看護師などなど、多くの関係事業者と力を合わせることが大事になります。
ALS患者の訪問看護を経験すると看護師としての創造力が高められますので、是非、頑張ってくださいね!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
訪問看護ステーション アスエイドでは、スタッフ間が腹を割って話せる関係性をモットーに困ったらすぐに相談する、一人で悩まない職場づくりを行っています。
初めての訪問看護で自信がないという看護師さん、訪問看護経験者でスキルアップしたい看護師さんは、是非、アスエイドで一緒に働いてほしいと思います!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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