訪問看護のなかで、看護師によるリハビリテーションを行うことがあります。
いくつか担当したケースの中で、抑うつ傾向にある利用者さんとのエピソードをご紹介させてください。
80歳代の男性Aさんは、もともと身体疾患により活動性が低下していましたが、身体面の不調に引っ張られるように精神面も意欲の低下がみられるようになりました。
もともとはデイサービスにも通所できていましたが、集団のなかで過ごすことや他者との関わり自体が難しくなっていきました。
幸い、看護師の訪問は受け入れて下さり、状態の観察や内服管理を継続しました。
また、訪問時にはAさんの話を良く聞くように心がけました。
Aさんが辛いと感じていることが何かを理解したかったからです。
身体面の安定とともに精神面がやや落ち着いてきた時期に、ご自宅で実施できるリハビリをはじめました。
初めはAさんも緊張して行っていましたが、訪問時は継続して実施することができるようになりました。
春先はAさんの精神面も安定する傾向にあり、試しに屋外歩行訓練を提案しました。
初めは難色を示していましたが、距離は短めから設定し、外の空気を吸うことを第一の目標としました。
無理に勧めないことを約束し、気分が良い日だけ少しずつ外へ出るようにしていきました。
回数を重ねていき2週間に1回程度、不定期ではあるものの屋外歩行も実施できるまでになりました。
屋外歩行ができるようになったばかりの頃は表情も硬く、とても足早に家の周りを歩くだけの状態でした。
そんな日々が続き、1年近くが経過した日。
天気も良く梅の香りが心地よい日、久しぶりに屋外歩行を提案しました。
いつも通り、家の周りを1周まわることにしました。
途中、近所の方に会いました。
普段は挨拶だけして足早に進んでしまうのですが、その日は「これ彼女なんだよ」と笑いながら冗談を言って声をかけていました。
Aさんの反応に私も近所の方も驚きましたが、そのあと3人で笑ったのが忘れられません。
とても緩やかではありますが、Aさんの精神面の回復が伺えた瞬間でした。
精神状態は変動があり、調子が良い状態が長く続くわけではありません。
身体状況と精神状態は連動していることが多く、一方だけへのアプローチでは回復は困難です。
看護師として焦らず、あきらめないで本人の状態に合わせたプログラムやケアを進めていく必要があります。
辛い時期も看護師や周りの支援者が支えることを伝え実践すること、できたことを積み重ね自信につなげていくことを根気よく続けていくことが大切だと学びました。
どのケースも同じようにはいきませんが、丁寧な関わりや看護によってご本人の回復力を引き出せるよう支援していきたいと考えています。